「後之先」とは。


前のエントリーでも書きましたが、「後之先」とは、もともと武道の言葉です。
しかし、真理は1つと言いますか、なにかを極め、
その本質を哲学にまで高めたものは、人生や社会において、
他の場面でも通用するということが往々にしてあります。

「鉄は熱いうちに打て」は、なにも鍛冶屋だけの言葉というわけではありませんし、
「勝って兜の緒を閉めよ」も、侍の専売特許というわけではありません。
特に、歴史の中で、実際の「戦場」で生み出された数々の言葉が、
「市場(マーケット)」という、現代の戦場でも、直喩的にさえ通用する、
というのは道理かもしれません。

春秋という、凄惨な時代をくぐり抜けた「孫子」が、
2000年以上経てなお、現代の経営者にとても人気があったり、
史上初の近代戦と言われた第一次大戦の結果、
編み出された「ランチェスターの戦略」が、
戦後の日本の経営者に、とてもよく取りいれられたことなど、
枚挙に暇がありませんね。

ちなみに、、、
戦後の高度成長期にもてはやされた感のある「ランチェスター」ですが、
その骨子となる考え方は、現代でも十分通用すると言いますか、
「戦うため」に基本となる、とても大事な考え方だと思います。
時代を超えて通用する理屈は、既に真理に到達したと言えるのかもしれません。

ちなみに、、、
僕のビジネススクールの恩師である、明治大学の上原征彦先生が、
数年前から「日本ランチェスター戦略学会」の会長になっておられまして、
日本におけるランチェスターの普及のため、日夜尽力されてらっしゃるようです。
ご興味をお持ちの方がいらっしゃいましたら、
学会までご連絡されてみてはいかがでしょうか。
ええ、別に宣伝を頼まれたわけではありません。

話は戻りまして、、、
孫子は(現代で言うところの)中国人、ランチェスターはイギリス人なわけですが、
僕ら日本人の先輩でも、立派な戦士、軍師さんたちは、
同じようにたくさんいらっしゃいました。
その中の一人が、戦国時代の剣聖・上泉信綱であり、その弟子であった柳生宗矩でもあり、
その柳生宗矩の悟った境地の1つが「後之先」であります。
千葉真一じゃありませんよ?

前置きが長くなりました。

「後之先」とは、相手の出方を見た上で、それに先んじる、
という剣術における考え方です。
「後から先んじる」とは、なにか言葉遊びのような、
一見、矛盾するような言い回しですが、
その理屈に普遍性があったからこそ、後の「武道」や「将棋」などにも流用されて、
現代に至っているのだと思います。

さて、振りかえってみると、
現代日本の「企業戦略」、「経営戦略」、「商品戦略」などでも、
「時代の(一歩ではなく)半歩先を行け」とか、
「(プロダクトアウトに対する)マーケットイン」とか、
これと同じような考え方を表した言葉はたくさんあることに気づきます。

想像を絶するようなクリエイティブ(な才能や商品)があるのであれば、
相手(≒市場や競合)を気にすることなく、
無人の荒野をひたすら進めばいいのでしょうが、
それほどのクリエイティブは、その辺に転がっているものではありません、よね?

例えば今、「タケコプター」や「どこでもドア」を開発できたとしたら、
「(狭義の)販売戦略」など、これっぽっちも必要ないのかもしれません。
しかし、それほどのクリエイティブがない、(僕らのような)一般的な人(≒企業)は、
常に相手の出方を見て、そして最善の対策を打て、
遅れた分、その先を行く対策を打て、ということです。
対象の動向を確認し、その次なる動向を分析し、最善の対応をすること。
これは武人や企業に限らず、日常生活においても、通用する考え方ですね。

しかーし!

ここで重要なことは、「後之後」になっちゃー意味ないよ、ということです。
相手の出方を見て、そのままそれが「遅れ」となるような対応しか取れなかった場合、
戦国時代の決闘において、それは命を落とすことにつながったことでしょう。
現代社会の企業間の戦いにおいても、やはり命を落とすことになりかねません。
当たり前のことですね、それは単に「のろま」なだけですから。

どうでしょう。
これほどの「真理」をたった3文字で表していて、
しかもそれを見出したのは、日本の先輩なのですよ。
いい言葉じゃーありませんか。
語感だって、「○×戦略」とか、「□△マーケティング」とかでなく、「後之先」。
なにかこう、「やまとごころ」というか、日本人らしい、
いい言い回しじゃーありませんか!

非凡ではない僕は、上泉先輩や、柳生先輩の教えに従って、これからも「後之先」で、
ちょっと先を行くビジネスを心がけていきたいと、そう思うのです。