経営美とは。


蝶理150周年

先日、古巣の蝶理の「創業150周年記念式典」なるパーリーにお呼ばれしてきました。東京と大阪の計2日間に渡って開催されたこの式典、東京は水天宮にあるロイヤルパークホテルで行われたんですが、来場者は1000人を超えていたとのことで、総額で8000万掛かったとか掛からなかったとか。いや掛かったんだそうですけどね。すごいなあ。さすがは300億円の資本増強をし(てもらっ)ただけのことはあります。

僕としては、同期や先輩後輩の懐かしい顔も見ることができ、それだけでも懐かしく、十分楽しむことができたのですが、来賓の多くは白髪のおじいちゃん、おばあちゃんと言った感じで、さながらOBOGのための敬老の日と言った趣き。かつては剛腕と言われた役員さんも、キレ者と呼ばれた歴代の社長さんも、今となってはすっかり好々爺然として、終始にこやかに、かつての戦友たちとの昔話に、花を咲かせているようでした。

戦後の焼け野原から、現在の日本経済が再出発してもうすぐ70年が経とうとしているわけですが、この70年。50年代の日米繊維摩擦から始まって、鉄鋼、造船、自動車、電機と91年のバブル崩壊まで、戦後の日本経済の歴史絵巻を紐解けば、これは相当に長い年月です。僕らなんか生まれる前ですからね。
式典の冒頭で、蝶理が創業した1861年(文久元年)からの歴史を追っていくムービーが流れたのですが、改めてこの「150年」という年月の「長さ」を実感してしまいました。ビザインは今漸く5期目を終えようとしているところで、年が明ければいよいよ6期目に入るわけですが、実際のところ、ついこの間始めたばかりのような気もしますが、それなりにいろんなこともありました。今はまだ1年1年生きていくのがやっとです。それが150回ですからね、、、ちょっと想像もつかないので、

*-*-*【視覚化すると】*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

・ (毎日必死な1年間)
ー(いろいろあったビザインの5年)
ーーーーーーーーーーーーーー(戦後日本の70年)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー(蝶理の150年)
    ↑         ↑     ↑        ↑
   バブル崩壊        終戦   日清日露戦争    幕末・明治維新

*-*-*【こうなります】*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

一説に「企業30年説」のような話もありますが、実は日本には創業100年以上の「老舗」が10万社、200年以上の会社が3000社以上あると言われています。これは世界でもダントツのトップの数字である、というよりも、他にこんな国はないと言った方が正確かもしれません。もちろん、これらは100年前から「会社」という組織であったわけではなくて、その多くが酒、味噌、醤油、菓子などの家業から始まっている事業体で、中には呉服屋から始まった三井グループのような会社もあります。
この200年、いや100年の間に、数えきれないほどの家業、事業、会社が生まれ、消えていったことでしょう。山一証券や千代田生命のような巨大企業が跡形もなく消滅したような「事件」は記憶に残りやすいものですが、KDDや長銀、マイカルのように合併や事業譲渡のような形で社名を消した会社も少なくありませんし、それどころか、知られることもなく消えていった地域の名門とされていたような老舗企業も、星の数ほどあったに違いありません。

事業や企業は、一度消えればそれで終わりです。「存続」することはなによりも大切なこと。「長銀」だって破綻する直前まで「名門銀行」だったし、国内でも有数の「一流企業」とされていました。それが破綻してしまえば全て終わりです。名門もへったくれもありません。幕末から維新にかけての動乱や、金融恐慌、敗戦、円高、バブル崩壊などの歴史を通しても、人々の記憶に残っていないだけで、数多の「名門企業」が消えていったことでしょう。一方で、江戸時代から何百年と細々と、堅実に続けられている門前町の和菓子屋さんなんかもあるわけですが、長い間国策として保護されていた金融業などを除けば、やはり一世を風靡して、急速に成長したような企業ほど、破綻などして消滅しやすい傾向があるような気がします。
そういう意味では、今まさに、日本の経済を牽引しているユニクロやソフトバンク、ヤフーや楽天、DeNAやグリーのような元気な企業も、いずれは勢いを失っていき、いつか消滅する日がやってきます。企業に永遠はなく、盛者必衰の理は経済活動においても当てはまる。

今のところ、生まれたばかりのビザインのような会社は、まずは柳井氏や三木谷氏あたりを目標に掲げて、いずれユニクロのようになるんだ、楽天のような企業にするんだ、と経営者のみなさん日々がんばってらっしゃるんだと思いますが、その柳井氏や三木谷氏だって、若い頃はダイエーの中内氏やソニーの盛田氏のような先輩経営者を目標にしてきたでしょうし、中内氏や盛田氏もまた、そのまた先輩の鈴木商店の金子氏や西武の堤氏辺りを目標にがんばっていたことでしょう。(妄想ですが)
話は少しそれますが、時代のスター企業の移り変わりは、プロ野球チームのオーナー企業の変遷を見ると分かりやすいですね。プロ野球チームは急成長したキャッシュリッチな新興企業が、企業としての格やブランド認知を得るのにうってつけの「アイテム」です。今は「出会い系」などと揶揄されているDeNAも、10年くらいオーナーシップを維持できれば、社会的ステータスを十分高められているはずです。モバゲーが10年持つのかは不明ですが。。。

さて、起業や新規事業を行うにあたって、開始当初の「ヒット」は必須要件だと思っています。細々と着実になんて、安定的なようでいて不安定。うまく行ったとしても、成功するまでに本当に長い時間がかかるもの。序盤のヒットがキャッシュを生み、人を呼び、モノを集めて、歯車がグルグルと回りだすのです。攻撃は最大の防御とばかりに、若い企業はグングン攻める続けるべきです。然しながら、急激な成長は急激な衰退につながりやすいことも経験則としては事実。プロ野球のオーナー企業よろしく、何十年も勢いを持続できる企業など、そうそうあるもんじゃありません。否、企業に限らず、国家や勢力についても同様です。ローマだってエジプトだって、モンゴルだって徳川幕府だって、永続した帝国は過去に1つもありません。アレクサンダーの帝国に至っては、彼一代でアジアを制覇し、彼一代で霧散してしまいました。

では、ある程度の成功をつかんだ帝国や企業が、どうやって存続していくか。その成功を持続していくか。老舗によっても「革新こそが存続の要」とする企業や、「リスクは極力追わない」ことを家訓とする企業などに分かれると思いますが、これは経営理念や哲学の問題。どういう態度で経営していきたいかという好みの問題であって、どっちが正解という話ではないかもしれません。自ら潰れたいと思っている企業などあるはずもなく、どこも必死に事業の継続を試み、出来るだけ長く、企業を存続させたいと努力しているわけですが、その過程で、やはりターニングポイントとなるような局面は大なり小なりやってきて、そういう時にこそ、創業者、経営者の思想や理念が、企業姿勢となって現れてくるものなのでしょう。

中世の武士の生き方に「命惜しむな、名をこそ惜しめ(保元物語)」というものがありますが、この言葉にはとても共感するものがあります。もちろん誰でも死にたくないですし、なるべく幸せに長く生きていたいのは当たり前のことです。でもいざ死に際して取るべき態度として、「命惜しむな」と言ってるわけです。そういう考え方、死生観が古来、この国の戦士たちの間で脈々と受け継がれてきたわけですが、僕はこれは、現代の法の上の人格である「法人」や、経済戦争を生き抜く「企業」にも当てはまるんじゃないかと思うんです。

今週も、とある超一流企業の醜聞がニュースを賑わせていますが、ああいうのを見ても、やはり「存続」だけが企業の「目的」ではないなと思います。経営はキレイゴトだけじゃ済まないこともあるし、サラリーマン社長では動きづらいということもあったでしょう。でもやっぱりその経営者の思想とか、人となりとかが陰に陽に、企業姿勢とかに反映されるのは当然のことだと思います。「存続さえし続ければいい」とてもそうは思えません。企業にとって存続するのは大切なこと。でもその上でもっと大切なことはどうあった(生きた)かということ。企業に「生き様」とか言うのもヘンですが、僕はこう言った「経営美」とでも言える要素がすごく大切なんじゃないかと考えています。

もちろん、企業には従業員がいて、生活がありますから、一経営者の死生観などによって安易に「散る」ことは許されるべきではありませんが、高度成長時代が終わって、自信を失った日本企業の多くが、只々守ることに固執し過ぎた結果が、現代の日本企業(経済)の弱さの大きな原因の1つであることは自明ですし、また反対に、ジョブズのような理念ある経営者によるアップルの強さみたいなものもあったんだと思うんです。理念は理念だけで終わらずに、それが処々のビヘイビアとして現れる結果、顧客や従業員などステークホルダーの共感という形で、実際の企業力となっている現実がある。なーんてことを、とある創業150年を迎える老舗企業のパーリーに出席して、長く経営を続けていく意味とか、そもそも経営とはなんてことを考えてしまったのでした。

そりゃ一番望ましいのは200年間もの間、一流企業としての格と実力を維持し続けている三井や住友のような企業になることなんでしょうけど、まさか今から幕末の開国維新のような大イベントが都合良く起こるはずもなく、さすがの僕も「ビザインを三井にする!」とまでは言えませんけどね。

( ゚д゚)ハッ! 、、、平成の開国、、、TPP、、、。

おしまい。

 


ロープーウェイじゃなくて、ロープ、ウェイですよ?孤高のビジネスデザイナー。佐藤祐太のブログへようこそ。